2025年2月13日木曜日

”砂漠の船” ラクダとロバと馬(3)

 シルクロードのものがたり(54)

ロバの話

私自身、馬についての知識は少ない。よって馬についてはここでは触れず、書物によって私が知ったロバの話しをしたい。


我々日本人はロバという動物にはなじみが少ない。日本の昔話にロバが登場する話は聞かない。かたや、中国の昔話にはこのロバは頻繁に登場する。有名な『枕中記・ちんちゅうき』に登場する蘆(ろ)という青年が乗っていたのはロバであろう。アジアの乾燥地帯においては、ロバという動物は古来から現在に至るまで、人の役に立つ超重要な動物らしい。

ブライアン・フィガンという英国人の著書『人類と家畜の世界史』の中に、次のように記されている。「ロバは人間と共に8000年以上働いてきた。馬やラクダよりもロバが家畜化されたほうが古い。東地中海地域では、人を輸送する手段として馬とラクダが登場するまでは唯一ロバを使っていた」

とはいうものの、ロバは歴史の中でつねに目立たない役割を演じてきた。「トボトボと歩く」と表現すれば、それは馬ではなくロバだと想像できる。さっそうと走る馬にくらべると、ロバという動物はいかにも地味な感じがする。

人類がいつどこで、ロバを家畜化したのかははっきりとは判っていない。ただBC6000年頃にはサハラ砂漠南部の人たちがロバを家畜として使っていた、というのがその方面の研究者たちの常識らしい。

BC2350年頃のエジプト第六王朝の宰相であったメレルカは、王様以上の権力を持っていたといわれる。この人の墓から出土した石の壁画には、10頭近くのロバを誘導する男の姿が描かれている。エジプトではBC4000年頃にはすでにロバを家畜として使用していた。古い歴史書の中にも、「エジプト人はロバの隊商を使って沙漠の鉱山に到着した」とか、「アッシリアからアナトリアまで、黒いロバが錫(すず)を運んだ」などの記述がある。

また古代エジプトでは、裕福な庶民であるロバの所有者が、一ヶ月二ヶ月単位でロバを貸し出してその代金を受け取り、これが儲かる商売であったとパピルスに記録されているという。今日でいえばレンタカーの貸出業者と同じである。

ロバは足取りが軽く、牛よりも速く歩く。起伏のある荒地ではとりわけ速い。馬にくらべるとスピードは劣るが耐久力に優れ、小さな体で馬と同じくらい100キロの荷を運ぶ。余談だが、ロバのおすと馬のめすが交配すると、ラバという強くて賢い動物が生まれる。

NHK取材班に同行した陳舜臣は、自分が見たロバのことを次のように語っている。

ロバが引く一輪車もあった。何度も見ているうちに、一つの発見をした。ラクダや馬の荷車を引く人たちは、歩いたりあるいは荷台の上から鞭をならしながら進んでいくのだが、ロバの上の人たちはなぜか、ほとんど眠りこけているのだ。中国側の魏(ぎ)さんが笑いながら説明してくれた。「ロバは賢いので自分の主人が眠っていても、いつも通い慣れた道を覚えていて、目的地まで運んでくれます。家に着いても荷車の上で朝まで寝ていた人もいるという笑い話もあります」


ロバ




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