大和の寺社・参拝紀行(9)
二日目の2月6日は、興福寺・春日大社・東大寺を参拝する。近鉄奈良駅近くのホテルでF君と朝食を一緒して、徒歩で興福寺に向かう。この三つの寺社をむすぶ三角形の内側が奈良公園になる。
「日本文化史で、もし興福寺という存在を除外するとしたら、様相が変わってしまうにちがいない。それほどこの寺の存在はわれわれ日本人にとって重要である」と司馬遼太郎は述べている。平安時代、日本の寺社のなかで最大の荘園を持っていたのがこの興福寺だ。藤原氏の氏寺という権力を背景に、巨額の富を持っていたこの寺は、建造物・仏像などを合わせると現在、数十件の国宝を所蔵している。
この寺で、私がもっとも興味があったのは、五重塔と阿修羅(あしゅら)像の二つだ。
この寺は最初からこの地にあったのではない。天智天皇8年(669)中臣鎌足の妻が、夫・鎌足の病気平癒を願って京都の山階に創建した山階寺(やましなでら)がこの寺の起源だという。その後、天武天皇の御代に飛鳥の地に移り、さらに和銅3年(710)平城遷都とともに現在の地に移った。この寺に「興福寺」と名付けたのは藤原不比等である。
「国宝・興福寺五重塔・令和大修理」との巨大な表示があり、工事完了は令和16年と書いてある。あと8年ほどかかるらしい。高さ50メートルのこの五重塔は、55メートルの京都の東寺(とうじ)の五重塔に次いで日本で二番目に高いそうだ。余談だが、私の広島県の実家の築山にも五重塔が建っている。祖父が戦前に庭師に造らせたもので、藤原氏ほどの財力はなかったので高さは2メートル半ほどである。
興福寺国宝館の拝観券を買う。900円。国宝・金剛力士像、国宝・天燈鬼(てんとうき)・龍燈鬼(りゅうとうき)立像、国宝・千手観音菩薩(せんじゅ・かんのんぼさつ)立像、国宝・十大弟子立像など、それぞれの国宝を見学する。いずれも迫力があり素晴らしい。
「これらは本物なの?それともレプリカなの?」とF君に聞いてみる。つまらんことを聞くなよといったニュアンスで「全部本物だよ」との返事が返ってくる。海外の博物館で一級の美術品を見学したことがあるが、いくつかがレプリカだった。すべてが本物と聞いて感激する。そうだとすれば、この拝観料は安い。
真冬なので拝観者は少ない。
阿修羅像の前で、私は10分間ほど立ちすくみ、そのお姿をじっくりと拝観する。なんとも神秘的で魅力的なお顔の表情だ。純粋さの中に憂いを感じる。少年のようでもあり、少女のようでもある。これを造ったのは天平時代の仏師だが、その仏師はきっすいの倭人だったのか、それとも渡来系の人だったのかと思いをめぐらす。始皇帝・兵馬俑の何千もの将兵の像は、一体一体にモデルの人物がいたという。この阿修羅像にもモデルがいたような気がする。「この像高は153・4センチ」と案内書に書いてある。これはモデルの人物の実際の身長だったのではあるまいか。
寺務所で「千手観音・興福寺」のご朱印をいただく。5メートルの巨大な観音像も拝観している。この観音さまは千の手と千の眼を持っておられる。助けを求めるすべての人のもとに、どこにでも、すぐに駆け付けてくださる。そして一人も漏らさず全員を救ってくださる。このようなありがたい観音菩薩さまだと教えていただいた。
興福寺を出て、春日大社に向かって奈良公園を横切って歩く。数多くの鹿と観光客が一緒になって遊んでいる。日本人も外国人もスマホで鹿の写真を撮っている。鹿センベイを与えている人もいる。鹿センベイを与えると、鹿がペコリとお辞儀をするのが可愛いい。みんなが鹿を可愛がっているのがよくわかる。
奈良を訪問する少し前に、「奈良公園ではアジア系の観光客が鹿を蹴飛ばして虐めている」と言った政治家がいた。日本人ファーストと叫び、外国人の入国を制限することを主張としている人だ。「あの話、本当なの?」とF君に聞く。「ウソに決まっているだろう。鹿をいじめる外国人など一度も見たことがないし、そんな話聞いたこともないよ」と言う。みんなが嬉しそうに鹿を大切にしている姿を見て、私もそうだろうなと思った。
「そうそう、この前こんなことがあったんだ。俺びっくりしたよ」と、F君が笑いながら言う。次のような話だ。
観光客だけでなく、奈良で働いている外国人はけっこう多いらしい。アジア系の青年が自転車の荷台に小さな荷物を積んで走ってきた。F君の目の前で荷物が落ちた。オーイ、オーイと大声で呼んだら青年は引き返してきたので、事なきを得た。青年はF君にお礼を言った。なんと言ったのか聞いてみる。「かたじけない」と言ったそうだ。
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| 興福寺 |
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| 興福寺 |
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| 興福寺 |
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| 阿修羅像 |
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| 奈良公園の鹿 |
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| 興福寺 ご朱印 |
| 私の実家の五重塔 |
























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