シルクロードのものがたり(84)
新疆ウイグル自治区は日本の4.4倍の面積を有し、人口は2300万人だという。ウルムチはその首府で人口は260万人だ。
旅の7日目、ウルムチでの観光はこの天山天池からはじまる。ウルムチ市内から北東90キロに位置し、天山山脈東側の標高1980メートルの場所にある湖の景勝地だという。
山道を走るのでスピードはあまり出せない。ホテルからバスで2時間ほど走り、天池(湖)のふもとの駐車場で観光用のシャトルバスに乗り換える。その後また15人乗りのカートに乗り換えて目的の湖に着く。合計で3時間近くかかった。ウルムチのホテルが海抜700メートルと聞いたので、1300メートルほどバスで登った勘定になる。
トルファンの火熖山(かえんざん)もそうだが、今まで新疆ウイグル自治区で見た山は、樹木のはえてない岩山だった。しかし、このあたりの山々には樹木が多い。清流も流れていて、軽井沢あたりの山道をドライブしているような気分になる。
「天池」に着くと、観光客がとても多い。欧米人や日本人などの外国人の姿はほとんど見えない。ほぼすべてが中国人だ。敦煌やトルファンでも感じたが、中国の大都市から西域(シルクロード方面)への観光客がとても多い気がする。50年ほど前の司馬遼太郎の『街道をゆく』の中に、「中国の大都市に住む漢人でシルクロード方面に関心を持つ人は少ない」との記述があったが、この50年で大きく変化しているようだ。
その理由を考えてみる
一つは、中国人が経済的に豊かになったことだ。現在の中国経済はけっして良くはない。以前のように日本や欧米を旅行して「爆買い」はしなくなった。それでも、家族連れで時に国内旅行を楽しむことは、中流以上の市民にとっては難しいことではないように感じる。二つ目は、当初は政府のキャンペーンがあったかも知れないが、現在は国民一人一人が「かつての中国の栄光の歴史」に目を向けたいとの気持ちが高まっているように思える。三つめは、8月下旬は日本と同じく子供の夏休みの終わりころだ。可愛い「一人っ子」が、「どこかに連れていってよ」とおねだりして、親が奮発しているのかも知れない。また本題から外れてきたようだ。「天山天池」の観光にもどる。
「天山天池は中国のスイス」と中国人は自慢しているらしい。私はスイスに行ったことがないので比べることはできないが、上海を含めて今まで中国で見た景色とはまったく異なる。樹木の量は日本ほどは多くなく、一部は岩肌だけの山も見えるが、バスが走る道沿いは緑一色の景色である。針葉樹は「モミ」、落葉樹は「白樺」が多い。
「天池」では定員100人ほどの観光船に乗り、40分ほどの遊覧航海に出る。全員がライフジャケットを身に着ける。S君とは大学時代の葉山・館山ではいつもこの格好だったので、ヨット部時代を思い出す。
湖の水は青く美しい。この湖は長さ3.4キロ、幅1.5キロの半月形をしていて、最も深い場所は深度105メートルだという。魚もいるらしい。遠くの天山山脈を見上げると、8月なのに雪をいただいた峰々が美しく連なる。写真の左側の雪をいただく高峰は、ボゴダ峰という5445メートルの山だ。モンゴル語で「聖なる山」という意味だと聞いた。
今回のシルクロード砂漠の旅の中では、この「天山天池」は一風変わった体験だった。快晴で真っ青な空に、太陽がサンサンと照りつける。それでも気温は23-25度で空気は乾燥していて涼しい。とても爽快な気分だ。
旅行会社のツアー企画の人は、うまいぐあいに、刺激的な観光地をセレクトしているものだと、感心した。
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| 天山天池の入り口 |
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| みんな上着を着ている |
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| ヨット部時代を思い出す |
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| 左の雪を頂く山がボゴダ峰 |


















