2019年3月26日火曜日

心意気を売るヘッドハンター

オフィスの近くに「珈琲大使館」という名の、旨いコーヒー専門店がある。

私は珈琲が好きだが、豆の種類や炒り方にこだわる、世にいう珈琲通ではない。ただ、この店の珈琲はとても美味しいので、20年も通っている。

この店のキャッチフレーズは、「心意気を売る珈琲専門店」とあり、店の看板に、そう書いてある。はじめてこの店に入った時、この言葉に惹かれ、店のオーナーに聞いてみた。

「ほう!旨い珈琲ではなく、心意気を売る店ですか?」

「珈琲専門店の珈琲が旨いのはあたりまえです。しかし、それだけでは一流の店とはいえません。味に加えて、我々の店は心意気を売っているのです!旨い珈琲だけではお客様は充分な幸福感を感じないのです」老オーナーはそう答えた。

この珈琲店はいつも満員だ。
もちろん珈琲の味は超一流であるが、それ以外に、この店には客を惹きつける何かがある。

若い店員一人一人が、キビキビと誠実に客に対応している。ただし、過剰なサービスはしない。それ故に、この店に行くと美味しい珈琲だけでなく、満ち足りた時間と空間を味わうことが出来る。


私は海運会社のシンガポール支店長をしたあと、1989年9月に、人材紹介業の仕事に身を投じ、以来32年になる。

国内外の一流の金融顧客と一流の候補者の方々に、数多くお会いでき、毎日楽しく仕事ができるのは幸福である。

長年この仕事に携わってきて、特にこの数年間、この業界を取り囲む環境の変化に、ある種の戸惑いを感じている。いわゆる「デジタル化」への急激な変化に対してである。

「デジタル化」は悪いことではない。便利でスピーディに作業をこなすことができ、多くの恩恵をこうむっている。

しかし、中には深く吟味しない薄っぺらの情報を、これでもか、これでもか、と顧客と候補者の双方にメールで送りつける人材紹介会社がある。このようなやり方が、本当のヘッドハンターと言えるのであろうか?

単に企業の人事部からの求人情報と、候補者の方の職歴・学歴・年齢・英語力・年収レベルなどを照らし合わせるだけで、候補者の 「基本的な考え・希望・哲学・人間性・その人の持っている潜在能力など」 を深く吟味せず、数多くのレジュメを企業に送りつけるのでは、ヘッドハンターとしての価値がないのではあるまいか。

世のIT化・デジタル化の流れに反旗をかかげる、という気持ちはない。

ただ、現在のように、おびただしい分量の情報が飛び交う時代だからこそ、

「企業の求めている人材の本質は何か?」を真摯に考え抜き、

「候補者の持っている本質は何か?を見抜き、どのような企業がこの候補者にとって一番力が発揮できるのか?また本人が幸福になれるのか?」

これらの観点から、候補者と一緒に考え、心を込めて、心を通わせながら、本当に役に立つ情報を、提供していくことが大切なのではあるまいか。


私は「珈琲大使館」を見習って、「心意気を売るヘッドハンター」として今後も努力を続けていきたいと思う。




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