シルクロードのものがたり(52)
ラクダの話
名産品という言葉から少しずれるが、シルクロードを語ってラクダを語らないわけにはいかない。このような題にしたのだが、主役はラクダで、ロバと馬は脇役である。
今までは歴史のうんちくを語ることが多かったので、この章では「動物学的な視点」から入りたい。といっても、これもその方面の先生方の受け売りである。
ラクダ科の動物の先祖が生まれたのは、4500万年前、場所は意外にも北米大陸だという。700万年前に現在のベーリング海峡を越えて(当時は陸続きであった)ユーラシア大陸に渡ってきたのがラクダである。動物学では「ラクダ科・ラクダ亜科」という。北米大陸と南米大陸は大昔は離れていた。300万年前にパナマあたりでくっついて陸続きになった。南に進んだ動物がリャマ・アルパカとなりアンデス高原に住みついた。これを「ラクダ科・リャマ亜科」という。すなわち、ラクダとリャマ・アルパカは ”またいとこ” くらいの親戚関係になる。
シベリアから南下したラクダのうち、モンゴル高原・ゴビ砂漠・南ロシア・新疆ウイグル・アフガニスタン北部あたりで飼育されたのが「フタコブラクダ」であり、さらに西に移動してアラビア半島・北アフリカのサハラ砂漠あたりで飼育されたのが「ヒトコブラクダ」である。どこかで進化・変化したのであろう。よってこの二つは ”兄弟” の関係である。
以上は、川本芳先生(京都大学・霊長類研究所)の論文の一部である。
ラクダは沙漠の生活に耐えるように、耳の内側に毛がはえ、まつげが長く、鼻孔は自由に開閉できる。かたい植物が食べられる丈夫な歯・舌・唇をもち、胃は牛と同じく四室にわかれて反芻(はんすう)してよく消化する。
ヒトコブラクダは体温が40度以上に上がるまで汗をかかない。必要な水分は血液だけでなく、筋肉などの体組織からも供給されるので、体中の40パーセントの水分を失っても生存できる。よって、ラクダには「熱中症」という病気はないらしい。干し肉(ビーフジャーキー)の一歩手前のようにカラカラになっても生きているというから、たいしたものだ。その直後に水を飲ませたら、10分間で92リットル飲んだという記録がある。また30数日間一滴も水を飲まずに旅を続けた記録もあるとも聞いた。これには私は首をかしげているが。
乳は飲めるし、肉は食用になり、毛は立派な織物になる。ここまでは羊と同じだが、荷物を運んだり、人を乗せたりするところは、ラクダのほうが優れている。良質な毛がとれることは、リャマ・アルパカの ”またいとこ” という氏素性からして合点がいく。
「いいことずくめ」のラクダに惚れ込んだ陳舜臣は、「シルクロードのあちこちにラクダの銅像を建てるべきだ!」とまで言っている。
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フタコブラクダ |
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