今年はコロナ禍があったので、例年よりも読書の時間が増えた気がする。ふと思い立ち、子供の頃に血湧き肉踊らせた「ロビンソン・クルーソー」を購入して読んでみた。
荒れ狂う嵐の中の航海・ただ一人助かり絶海の孤島に上陸する・島を探検して自生のオレンジや葡萄を発見する・自分でパンをつくり舟を作る・スペインの難破船から食糧や酒や火薬を運び出す・フライデーと一緒に野蛮人や英国船員の悪党をやっつける。
子供の頃、この冒険物語を興奮しながら読んだ。大人が読んでも面白い。今回もハラハラドキドキしながらこれを読んだ。ただ今回、自分の記憶になかったことを二つほど発見した。読んだはずなのだが、子供の私には興味なかったので忘れてしまったのだろう。この本の最初と最後の部分である。
最後の記述によると、このロビンソン・クルーソーという人は、結果的に大富豪になっている。28年間も一人で無人島にくらした男がなぜ富豪になったのか?
はじめの頃の航海で、クルーソーはカナリヤ諸島近くで西アフリカのムーア人に捕まり2年間奴隷になる。勇気を出してボートで脱出して運良くポルトガル人の船長に助けられる。この船長が良い人だった。ブラジルに渡った後、船長の助言で貿易に従事してかなりの財産を作る。そのお金でブラジルに農園を買い、4年間農園オーナーとして幸福な生活を送る。そのまま農園主として生活しておれば良かったのだが、またしても冒険の血が騒ぎ船に乗って奴隷を買いに西アフリカに向かう。この航海で難破して28年間の孤島での生活となる。
この間に、ブラジルの農園の生産利益・不動産の価値が巨額の資産にふくれあがっていた。当時の英国の民事の法律は、現在と同じようにキッチリしていたようだ。登記簿・権利証・契約書・委任状などの書類をもとに、自分の財産をキッチリと全額回収している。
お世話になったポルトガル人船長やその息子、他の人々に充分なお礼をしてもなお巨額のお金が残った。それを慈善事業に寄付している。ロビンソン・クルーソーは経済的には成功者であった。このことは子供の時の読書の記憶からまったく忘れていた。
いま一つ、冒頭の記述も忘却していた。経済的に恵まれた家に生まれたこの少年は、幼い時から船乗りになって世界中を旅したいと考えていた。父親は法律家にする考えで、少年を良い環境で学問させる。そのままいけば、どこかの大学に入学して法律を学んでいたはずだ。ところが18歳の時、友人が彼の父の船に乗ってハルからロンドンに行くので一緒に行かないかと声をかけ、クルーソー少年は衝動的にこれに飛びつく。
その1年前、船乗りになって海外を冒険したいという息子に、父は次のように愛情に満ちた忠告をしている。この父親の言葉はじつに含蓄に富む。
「どうしておまえは親の家を飛び出さなければならないのか。自分の生まれ故郷にいて勤勉に努力すれば、安楽な生活が約束されているではないか。海外で一旗あげようとするのはそうする以外に道のない困窮したものか、あるいは野心的な財産家のすることだ。さいわいお前はその中間に置かれている。自分の長い人生経験からして、これが人間の一番幸福な身分なのだ。低い身分の人間のように貧乏に苦しむこともない。高い身分の人につきまとう体面や、驕りや、妬みに悩まされることもない。貧乏も富も共に避けたいと願った賢者がいた。この言葉こそが本当の幸福がどこにあるか教えてくれる」
この父親のありがたい忠告をふりきって、少年は危険な冒険の旅に出る。困難に遭遇するたびに、少年は父の意見のありがたさを思い出す。ところが、困難が目に前を通り過ぎると、少年はけろっとして再び危険な旅に出るのである。
気骨ある若者は親の意見を聞かないものらしい。そして、それはかならずしも悪いことではないのかも知れない、と近頃思う。このような若者の勇気ある冒険心によって、人間の歴史は進歩してきたような気がするからである。
いささか唐突だが、高倉健の「唐獅子牡丹」の歌詞も若者らしくて良い。私はこの歌がとても気に入っている。
親の意見を承知ですねて、曲がりくねった六区の風よ、つもり重ねた不孝の数を、なんと詫びよかおふくろに、背中で泣いてる唐獅子牡丹
おぼろ月でも隅田の水に、昔ながらの濁らぬ光、やがて夜明けの来るそれまでは、意地でささげる夢ひとつ、背中で呼んでる唐獅子牡丹
ヘッドハンターの仕事に従事して30年が過ぎた。2万人以上の方々とお会いした。成功された人には共通した特徴があることに近頃気がついた。それは「好奇心・冒険心・勇気・親切心」である。これがないと、いくら高学歴・高い語学力・頭の良さがあっても、大きくは成功しないのではないかと思う。
無鉄砲に船乗りになる必要はない。背中に入れ墨をして、ドスをふところに殴り込みをかけるのは良くないことだ。ただ、成功を目指す若者には、「好奇心・冒険心・勇気・親切心」がどうしても必要のような気がしてならない。
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