2022年2月21日月曜日

神戸の英字新聞社に入社・伊東16歳(2)

 伊東巳代治・こぼれ話(3)

ここから先が本題になる。

半年ほどして、キュッリー社長のもとに、神戸の大物アメリカ人から、伊東巳代治を急いで派遣して欲しいとの緊急依頼が入る。

「明治6年の7月頃と覚ゆ。米国領事館(領事ダニエル・ターネル)へ、当時の兵庫県令・神田孝平氏が、県属の通詞堀某を連れて、海岸通りの地先権の事につき、面倒なる法律問題についての談判に来(きた)るあり。しかるに、県属の通詞にては通訳意の如くならず。アメリカ領事も耐えかねて、新聞社社長に対して、急いで伊東を派遣してくれとの急報あり。社長も米国領事館にはしばしば出入りがあり、領事の歓心を得ておく必要あり。ぜひ行きて、なるべく丁寧にやってくれとの懇諭(こんゆ)あり。

ただちに領事館に至りたるに、2階の客間にて神田県令と米国領事との対談の席に引見せらる。概要を領事より聞き取り、これを通訳して神田県令に話し、追々(おいおい)議論が進行したり。しかるに、県令の所説に面白からざる所ありたるをもって、少年の生意気ながら、自分も日本人なれば、日本の不利益にならぬようしたりき一念より、談判中にしばしば神田県令に注意を試みたり。県令も大いにうなずきたるをもって、自分の思い通りを先方に英訳し、アメリカ領事も次第に受太刀(うけだち)となりて、当日の談判は結局県令側が有利となりたり。神田県令はこれを非常に喜び、別れる際、自分の姓名と国所(くにどころ)を聞き、県令の官舎に話しに来てくれと所望せられたりしも、自分は別に求めるところなき為、行くつもりなかりき」


この時の通訳費用は、だれが負担したのであろうか?アメリカ領事館からの依頼なので米国側が支払ったと考えるのが妥当だが、もしかしたら兵庫県と折半したのかも知れない。ところが伊東巳代治は、日本人として日本の不利益を避けたいとの一念で、神田県令が有利になるように誘導し、英訳している。

「単なる英語屋ではない。少年ながら大和魂を持った男だ。この少年は大成する」神田県令はこのように、伊東巳代治を高く評価したのであろう。この席のアメリカ側に、日本語を理解する人がいなかったのも幸いであった。

「県令の官舎に遊びに来い」という神田の好意に対して、「別に行きたくもないので放っておくつもりだった」と伊東は記している。

この神田孝平という男はただ者ではなかった。

このあと、神田県令の敏速かつ熱意ある、「伊東巳代治ヘッドハンティング作戦」がはじまる。これは次回で紹介する。一流の人材を確保しようと思う、企業の経営者に役に立つ話だと思う。






0 件のコメント:

コメントを投稿