ー戦場へー
〇召されたつ日の近つ¨くをかぞえへつつ 貯蓄は母の名にきりかへぬ
辻村忠勝
〇仏前に令状供(れいじょうそな)へ今日はまだ 今日のつとめの田草(たぐさ)取りに出ぬ
篠原杜子城 大正1-
〇さがし物ありと誘(いざな)ひ夜の蔵(くら)に 明日往く夫は吾を抱きしむ
成島やす子 大正8-
〇明日応召の友をし訪(と)へばねむごろに 温床苗代(おんしょうなわしろ)の手入れしてゐぬ
吹田晋平 明治35-
〇明日出で征(ゆ)く 湯屋の息子が会釈して 下足の札(ふだ)を渡して呉れぬ
駒 敏郎 大正14-
〇神宮競技場 ここ聖域にして送らるる 学徒幾万に雨ふり注ぐ
〇いのちながらえて 還(かえ)るうつつは想はねど 民法総則といふを求めぬ
吉野昌夫 大正11-
〇つれだちて 門出つ¨る時期せずして 皆仰ぎたり母校の校舎
畔上知時 (上智大学)
〇きみが手に 成りし高菜は採り惜しみ 五月の畑(はた)に花咲かせたり
石川まき子 明治43-
〇地に伏して ただに祈らむ生還を 母のこころとくみ給へかし
平林英子 明治35-
〇戦線に たより絶えたる弟の 歳をもかぞえ豆撒きにけり
大野信貞 明治42-
ー兵の周辺ー
〇幾日(いくひ)へず 出でたつ兵をねぎらふに 白き豆腐をもとめ得しかも
猪木とみ 明治16-昭和43 (民家宿営)
〇南海の 真夏の海に死せし子よ いまうつし世は初雪の降る
島田敏子 明治35- (戦死公報)
〇戦死せる 弟の日記に食べたきもの観たきもの 読みたきものありて泣かしむ
岩波香代子 大正1-
ー戦いの歌ー
〇決死隊 志願の兵にくさむらの 穂草(ほぐさ)を切りて籤(くじ)を引かしむ
山田雅之 明治40-
〇傷負いし 捕虜にメンタム塗りやれば 顔笑みにけり夏の木のかげ
中川紫川 (大陸戦線)
〇休息と 声はかかれど雨を避くる すべもなければぬかるみに座す
山下弘雄 大正8-
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