2020年5月25日月曜日

昭和万葉集(2)

ー戦場へー

〇召されたつ日の近つ¨くをかぞえへつつ 貯蓄は母の名にきりかへぬ
  辻村忠勝

〇仏前に令状供(れいじょうそな)へ今日はまだ 今日のつとめの田草(たぐさ)取りに出ぬ
  篠原杜子城  大正1-

〇さがし物ありと誘(いざな)ひ夜の蔵(くら)に 明日往く夫は吾を抱きしむ
  成島やす子 大正8-

〇明日応召の友をし訪(と)へばねむごろに 温床苗代(おんしょうなわしろ)の手入れしてゐぬ
  吹田晋平 明治35-

〇明日出で征(ゆ)く 湯屋の息子が会釈して 下足の札(ふだ)を渡して呉れぬ
  駒 敏郎 大正14-

〇神宮競技場 ここ聖域にして送らるる 学徒幾万に雨ふり注ぐ
〇いのちながらえて 還(かえ)るうつつは想はねど 民法総則といふを求めぬ
  吉野昌夫  大正11-

〇つれだちて 門出つ¨る時期せずして 皆仰ぎたり母校の校舎
  畔上知時 (上智大学)

〇きみが手に 成りし高菜は採り惜しみ 五月の畑(はた)に花咲かせたり
  石川まき子 明治43-

〇地に伏して ただに祈らむ生還を 母のこころとくみ給へかし
  平林英子 明治35-

〇戦線に たより絶えたる弟の 歳をもかぞえ豆撒きにけり
  大野信貞 明治42-

ー兵の周辺ー

〇幾日(いくひ)へず 出でたつ兵をねぎらふに 白き豆腐をもとめ得しかも
  猪木とみ 明治16-昭和43 (民家宿営)

〇南海の 真夏の海に死せし子よ いまうつし世は初雪の降る
  島田敏子 明治35- (戦死公報) 

〇戦死せる 弟の日記に食べたきもの観たきもの 読みたきものありて泣かしむ
  岩波香代子 大正1-

ー戦いの歌ー

〇決死隊 志願の兵にくさむらの 穂草(ほぐさ)を切りて籤(くじ)を引かしむ
  山田雅之  明治40-

〇傷負いし 捕虜にメンタム塗りやれば 顔笑みにけり夏の木のかげ
  中川紫川  (大陸戦線)

〇休息と 声はかかれど雨を避くる すべもなければぬかるみに座す
  山下弘雄  大正8-







 




 


 

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