ー海に漂うー
〇ゆく先を 聞かさるるなく乗船す 南方とのみ我らは知りて
堀内雄平 明治44-
〇積み込みし 冬菜の中ゆこほろぎの 今宵鳴きいつ¨南行く汽船(ふね)
若月高一 明治42-
〇敵潜の 魚雷は船底を過ぎしという 船長の言葉に歓声あがる
山本沙羅 大正11-
ー望郷ー
〇敵機飛ぶ 下に馬鈴薯を掘るといふ 妻の手紙は身より離さず
佐藤豊太郎 明治43-
〇ふるさとの 秋としるして野の花を 送れ来(きた)れり愛(かな)しきかなや
駒田信二 大正3-
〇わびしげに 誤字などまじるふみ見れば ふるさとの母は老いたまひけり
瀬川保 大正8-
ー雛に幾年ー
〇盛り分けし 椀(わん)一杯の芋がゆを 疎開の子らは拝(をろが)みて食(は)む
浜中ふじの 昭和3- (学童疎開)
〇疎開せし 子を訪ね寺に来(こ)し 母等稲刈るわれに礼してすぎぬ
滝川重人 明治42-
〇五年生 山田茂と言ひし児は 母の写真に声かけて寝(い)ぬ
野沢学人 明治43-
〇診察の 謝礼にもらひし鶏卵を 朝がれひのとき十右衛門と食ふ
斎藤茂吉 明治15-昭和28
〇ブエノスアイレスより転校せし子が嬉しげに アルゼンチンの中立をいふ
小田武雄 明治39-
ー戦争への疑問ー
〇豆まきと いへど豆なき家の内 福は来らず鬼は追はれず
永井荷風 明治12-昭和34
ー農村の日々ー
〇供出の 米出し終へし広土間に 甘藷餅(いももち)つきて新年迎ふ
小坂新一
〇釜磨ぎて 稲刈りにゆく朝の道 腰のむすびのほくほくと温(ぬく)し
川村八郎 大正9-昭和31
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