2020年5月19日火曜日

昭和万葉集(1)

ー12月8日ー

〇人間の常識を超え 学識を超えておこれり 日本世界と戦う
 南原繁 明治22-昭和49 (東大教授)

〇開戦の電報持ちし指揮官の 手がこころもちふるへてゐたり
 柳川貞光 大正6-  (海軍にて)

〇今はしも東京の沖を航過(すぎ)むとす 心をただして左舷に向ふ
 佐藤完一  -昭和17 (空母搭乗員)

〇特殊潜航艇といふあたらしき艦(ふね)の名が 耳朶(じだ)に余韻を残す
 志津文雄  (アララギ)

〇いざゆかむ 網も機雷も乗り越えて 撃ちて真珠の玉と砕けむ
 古野繁実 大正7-昭和16年12月8日 (海兵67期)


ー銃後の国民生活ー

〇旅を行く吾に賜(た)びたる白き飯 憚(はばか)りつつも汽車中に食(を)す
 大野広高 明治35-

〇晴衣二枚と替えたるいもは宝なり 麦とかゆにしていく日つながむ
 高木せつ 大正3-

〇干し上げて一升ほどの豌豆を たからの如く妻の貯(たくわ)ふ
 松下仙次

〇煎りをえし わつ¨かの豆を子供多き 隣の家に妻分けに行く
 桜井平喜

〇病人に配給ありしいささかの 蜂蜜なれば惜しみつつ食ふ
 霜井清子

〇たまさかに配給の肉は子らに分け 妻と煮こみの野菜のみ食ふ
 佐沢波弦 明治22-

〇一本に残りし大根我が番まで 売れずにあれと願ひつつ待つ
 吉田佳子 大正11-

〇召されたる夫(つま)の使ひし鶴嘴(つるはし)に馴れて石炭掘(すみほ)る女抗夫われは
 下田綾女

〇釣鐘は国に捧げて楼門(ろうもん)の 百日紅(ひゃくじつこう)はくれなゐ燃ゆる
 平井庫夫

〇みいくさに明日は捧げむ梵鐘(ぼんしょう)を 僧はひそかにうちならしをり
 高木美佐子

〇寺々ゆ 召されてをゆく梵鐘の ここの駅にも四つ並べり
 原君代  大正1-

〇しろがねも黄金(くがね)も家にのこさめや 子らはもとより国にささげつ
 土岐善麿 明治18-

〇特攻隊に続くとあへて深夜業 希(ねが)ひ来にけり生徒(こ)ら十二名
 永石三男 明治37-昭和33

〇挺身隊(ていしんたい)の女学生三人片隅に 活字ケースを暗記してをり
 青木辰雄 明治42-










 

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