「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校にいる時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたかと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りることは出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。小使いにおぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして、二階位から飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた」
私が広島県の田舎の中学校に入学して、最初の国語の授業の時、新任の先生は「起立!礼!」のあと、何も言わないで漱石の「坊ちゃん」の冒頭の部分をここまで読んだ。
松岡先生という名前で、この年に大学を卒業され、最初の授業だったと後で知った。22歳か23歳だったはずだ。家に帰り母に「変な先生が来たよ」と言ったら、「松岡先生の息子さんだよ」と言った。隣村に松岡先生という先生がいて母はその方を知っていた。息子さんも教師になるということでどこかの大学に通っていた、とも言う。
あとで聞いてみると、若・松岡先生は、愛媛大学の教育学部の卒業だった。先生には、「坊ちゃん」というあだ名がついた。松岡先生はそれを得意としている風であった。
「坊ちゃん」の中に、松山中学の生徒と松山師範学校の生徒との喧嘩の場面がある。愛媛大学の教育学部はこの松山師範の流れをくむ学校だから、四年間松山ですごした松岡先生にとって、この「坊ちゃん」は身内の話のような気がしたのであろう。新任早々この本の紹介をされたのは、今になると良くわかる。
「中学校には暴れ者やいたずら坊主が多く、バッタを持ってきたり、引き戸の上に黒板消しをはさむやつがいると聞いていたが、この中学校の生徒はみんな品行方正でよろしい」などと言い、そのあとで「坊ちゃん」についての解説をしてくれた。
「この本の中に出てくる松山中学の先生方には、何人かのモデルがあるらしい。ただこの通りの事件があったわけではない。漱石が面白おかしく書いたユーモア小説だ。特に主人公の坊ちゃんの少年時代の話は作り話だ。漱石自身、物理学校(東京理科大学)の卒業ではなく、東大卒業の優等生だ。子供の頃はしっかり勉強したまじめな少年だった。この小説の中の腕白ぶりは、むしろそうなりたかった、という漱石の願望のようなものだ」
だから私はそれを今まで、何十年も信じていた。
ところが、最近になって「漱石の少年時代は、この坊ちゃんの通り、いやこれ以上の乱暴者であった」と知った。半端ではない、とんでもない「悪太郎」だったらしい。
「出所」もしっかりしていて、信頼できる筋の人の話である。「ブログの読者の方に読んでいただく価値がある」と思い、これから何回かにわたって、「夏目金之助の少年時代の腕白ぶり」についてご紹介したい。
あるいは、ご存じの方もいらっしゃるかも知れないが、これは私が最近知った「愉快な話」の一つである。
夏目漱石の続きが楽しみです。次回更新日を楽しみにしております。
返信削除自分もずっと、坊ちゃんと漱石の子供時代は全く違うと想定してきました。楽しみです。
返信削除ご声援ありがとうございます。
返信削除少年時代の「坊ちゃん」と少年時代の「夏目金之助」が喧嘩をしたら、たぶん夏目金之助が勝つと思います。とんでもない暴れ者・悪太郎だったようです(笑)楽しみにしてください!田頭