塩のはなし(2)
「日本男児は精力絶倫」というのは、古代から近代に至るまで、外国人女性の間で評判であった。40-50年前までは、日本人の塩の摂取量が世界の民族の中でトップクラスだったのがその理由である。
男だけではない。大和なでしこも精力絶倫であった。現在の日本人男女は、ご先祖様たちの名声を落としているような気がする。残念なことだ。
雄略天皇の精力絶倫ぶりは有名だ。
童女君(をみなぎみ)という采女(うねめ)が女の子を産んだ。天皇が一夜を共にされただけで孕まれたので、天皇はこれを疑い認知せず養育費を払わなかった。この時の側近(今でいう侍従長)の物部目大連(もののべのめの・おおむらじ)という人が偉かった。
天皇が血統を保つため、多くの女性にたくさんの子供を産ませることは悪いことではない。しかし、それを認知しないのは男らしくない。女の子の顔は天皇によく似ている。周囲の人々に聞き、前後の事情を調べてみて、この女の子は天皇の子に間違いないと侍従長は判断する。そして天皇に諫言(かんげん)する。
「女の子の歩く姿を見ると天皇によく似ておられます。なぜ認められないのですか」と。
「ほかの者もそう言う。だが私と一夜を共にしただけで身籠ったのだ。一晩で子供を産むとは異常なので疑っているのだ」
「それでは一晩に何回いたされたのですか?」
「7回だ」
「乙女は清らかな身と心で一夜を共にいたしました。7回もいたされたのであれば一夜で懐妊することはあります。軽々しく疑ってこれを認知しないのは天皇として恥ずかしいことです」
天皇は大連に命じ、女の子を皇女とし、母親を妃(きさき)とした。
これは筆者の作り話ではない。「日本書紀第十四巻・雄略天皇」の箇所に書かれている。「日本書紀」は唐に見せることを意識して編纂された。よって完璧な漢文で書かれている。
「大連曰、然則一宵喚幾廻」 大連(おおむらじ)曰(まうさ)く、然らば一宵に幾廻(いくたび)か喚(めし)しや
「天皇曰、七廻喚之」 天皇曰(のたままは)く、七廻之(ななたびこれ)を喚(めしき)と
ちなみにこの女の子は、24代仁賢天皇の皇后となり、その子が25代武烈天皇であり、孫が29代欽明天皇であると、「日本書紀」は記している。この方面の研究家によると、「日本書紀はこの雄略天皇の巻十四から書きはじめられた」という。この天皇の時代から年次を記した記録が大和朝廷内に豊富に残されていた、のがその理由だという。
701年に完成した「大宝律令」を唐に持参したのは、以前このブログで紹介した粟田真人(あわたの・まひと)である。720年に完成した「日本書紀」を唐に運んだのは第九次の遣唐大使・多治比広成(たじひの・ひろなり)と思われる。
長文の「日本書紀」のこの部分だけが、一種の「ポルノ本」として、長安の上流階級の婦人たちのあいだで、手書きで回し読みされたらしい。
若い遣唐留学生が長安の都に到着すると、「来たわよ、来たわよ。倭国から精力絶倫男たちが」と、長安の上流婦人たちの目が淫乱そうに輝いた、との言い伝えがある。
最澄は39歳で真面目人間だったから、長安女性の誘惑を振り切ったに違いない。31歳の熱血漢・空海は、「日本男児ここにあり」と大活躍を演じたのではあるまいか。これは、筆者の想像であるが、別の「女好きで精力絶倫の留学僧」の名前が史書に残っている。
「入唐求法巡礼行記」は、最澄の弟子・円仁(えんにん)の十年におよぶ唐での見聞録である。この円仁も師匠の最澄と同じ超真面目人間だから、唐でしっかりと学問をおさめ、三代目の天台座主になる。すなわち、長安婦人の誘惑をふりきった。
精力絶倫和尚とは、この円仁に同行した青年僧・円載(えんさい)だ。宮崎市定氏は、「中国人の尼僧と深い関係になった。学問をせず女にのめり込んでいると知った大和朝廷は円載への留学費用(砂金)をストップした。兄弟子の円仁が、日本から取り寄せた金をねだって酒と女に注ぎ込んだ。円仁という人は優しい人だった。15年後に留学してくる7歳年下の弟弟子の円珍(えんちん・五代天台座主)にも金の無心をして、中国人女性に注ぎ込んだ」と、この女好き和尚に好意をもった表現で記している。
この円載和尚も、きっと塩辛い料理が好きだったのだろう。
19世紀のヨーロッパでも、日本人留学生は欧州婦人たちにモテた。これは雄略天皇ではなく、北川歌麿のおかげである。「オォ!ウタマロが来た」と歓迎されたようだ。
日本人は数十年前までは、1人あたり、年間9-10キロの塩を摂取し世界でもトップクラスであった、とその方面の研究家は言う。だが、この30年、世界保健機構や日本の厚生省や日本医師会は、「健康のため塩分控えめ」を主張している。高血圧や胃がんなどの成人病予防のためである。電気冷蔵庫の普及で、塩を使わなくても食料の長期保存が可能になったのも理由の一つである。現在の日本人の平均摂取量は年間5-6キロらしい。
ただこれによって、日本の若者の性欲が減少して、出生率が減ってきているように思える。塩分控えめは50歳以上に限定して、「若者は高血圧や胃がんの心配をしないでもっとガンガン塩分をとれ」とのキャンペーンを政府が行なったら良いのではあるまいか。
雄略天皇や円載和尚のような精力絶倫男や精力絶倫の大和なでしこが増えると、日本の人口は増加に転じるに違いない。私はそう考えている。
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