思いやりの心を持っている人(人の気持ちを察する心のある人)と言っても良い。
外資系金融機関の代表者クラスの中に「善意のかたまり」のような人が時にいる。男性にも女性にもいる。このような人から見ると大概の人が「良い人」に見えるらしい。人材を紹介すると、ほとんどの場合「良い人ですね」と言ってくださる。リップサービスかと思いきや、どうも本心らしい。人の長所を第一に見てしまうのであろう。
このような方が相手だと、逆に私のほうが、候補者選びを厳選しなくては、と慎重になる。もちろんこの人一人がOKだと言っても、採用が決まるわけではない。関連部門の何人かが面接して、OKが出たあとオファーレターが手渡される。このような人をボスに持つと、周りの人々も私と同じような気持ちになるらしい。
「うちの大将は善人だから、だれを見ても良い人に見えるのですよ。だから我々がしっかり目を光らせてないといけないんです」という声なき声が聞こえてくる。
このような善意のかたまりのような人が、生き馬の目を抜くような外資の投資銀行でうまくやっていけるのが、不思議といえば不思議である。でも現実にそのような人を私は何人も知っている。会社の業績も良く、社内の空気も明るい。中国の歴史上の人物だと劉備玄徳、日本史では北条泰時のような仁徳の人なのかも知れない。
逆のケースもある。どのような人材を紹介しても、かならずケチをつける人や会社が時たまある。やれ年齢が、やれ職歴がドンピシャでない。TOEIC850では駄目だ900は欲しい等と、どこかにかならず文句をつける採用側の方がいる。何十人も面接してやっと採用した人材に、短期間で逃げられるのもこのような会社である。入社後もその人の粗探しをするのであろう。働く人が意欲を失うのだと思う。このような会社はおおむね業績が良くない。
候補者にも色々なタイプの人がいる。両極のケースをご紹介しよう。
20年以上前の話である。英語には堪能だがずいぶん疑い深い女性がいた。英文で書かれたオファーレターの中の、ある単語の意味がハッキリせず二つの意味に解釈できる、と彼女は言う。片方の意味だと自分にいちじるしく不利になるのだと言う。このような表現をするこの会社は不誠実だとも言う。私には会社がそんなに悪意を持っているとは思えない。
「どっちだって大きくは変わらないんじゃないですか」との私の返事に失望したらしい。えらく憤慨していた。結局彼女はこの会社に入社しなかった。たしかに外資系企業で働く場合、文書にした契約書は重要ではある。ただ重箱のすみをつつくように、なんとか自分の立場が不利にならないようにと、そんなことばかりを考えている人で、成功した人を私は見たことが無い。
逆のケースもある。25年以上前の話である。その候補者は当時30歳前後の女性だった。大学を卒業して一流の銀行に入社して7-8年の人だった。英国の筋の良い会社が東京に小さなオフィスをオープンした。代表者は英国人男性、もう一人日本人女性が秘書として勤務していた。私の紹介した女性は、営業というか企画というか、フロント系の職種だった。
面接の翌朝、本人から私に電話があった。「昨夜お会いした英国人はとても立派な方でした。来てくださいと言われたので、はい行きますと答えました。先ほど今の会社に辞表を出しました」と言うのだ。こちらがあわててしまった。「ちゃんとオファーレターをもらったのですか?お給料・仕事内容はきちんと決めたのですか?」と聞いた。
「オファーレターは来週くださるそうです。現在の給料を聞かれたので800万円ですと答えました。笑いながら、そうかそうか、と言われたのでそのくらいはくださると思います。早く来て欲しいと言われたので、今日辞表を出しました。そうしないと相手の希望日に出社できないのです」 本人はあっけらかんとして、相手の言うことを全面的に信用している。
この転職は成功であった。翌週もらったオファーレターには基本給100万円アップ、ボーナスは別途、と書かれていた。彼女が言うとおり、この英国人は大変立派な方だった。彼女はこの支店長から強い信頼を得て、のびのびと良い仕事をなされ、良い成績を上げた。
この両極端の話は実話である。別に後者を真似する必要はない。いささか危険である。この二つの中間の常識的なところで行動すれば良いと思う。
ただ、前者より後者のタイプの人のほうが、成功し幸福になる確率ははるかに高い。二万人以上の人々の転職を見ていて、そう断言できる。
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