2025年10月20日月曜日

【トルファン】高昌故城

 シルクロードのものがたり(75)

トルファンは一泊だけなので、盛りだくさんの観光地見学で大忙しだ。特に印象が強かったこの高昌故城と、そのあとのカレーズ(地下水路)での見聞だけをお伝えしたい。

トルファンに関係する歴史上の重要人物は「玄奘三蔵」だと思う。トルファン観光とは少しずれるが、この玄奘についての私の考察を、次の掲載で、数編書き加えたいと考えている。玄奘に関心のない方にはあまり面白くないかもしれないが。

高昌国王・麴文泰(きく・ぶんたい)の玄奘に対する異常なまでの尊敬と好意について、私は何十年も不思議な気持を抱き続けてきた。麴文泰はなぜ、あれほどまでの好意を示したのか。いまひとつ。玄奘がインドから帰国するとき再度この地に立ち寄り、3年間ここに留まるという二人の固い約束は実行されなかった。高昌国が唐に滅ぼされたからである。高昌国はなぜ滅びたのか。

このような疑問を持っていた私にとって、この高昌故城は先の玉門関と並び、今回の旅行の最重要の見学地である。そして、まったくの偶然の出来事により、点と点が結びついた格好で、私の疑問はほぼ解消することができた。そして自分なりの仮説を組み立てることができた。学問的にどれだけの価値があるか分からないが、私としては「歴史の大発見」をしたような気持でいる。これについては、この先で語りたい。

高昌故城は、トルファン市街から東40キロの場所にある。城の周囲は約5キロ、城内の面積は200万平方メートルというから東京ドームの約40倍ほどの広さだ。

この高昌国という国は、6世紀・7世紀になって突如、麴(きく)氏という漢人がつくった国ではない。その歴史は古い。漢の武帝のころ、この地は中国の勢力圏に入った。武帝のひ孫の宣帝の時代、軍人とその家族がこの地に派遣され、いわゆる屯田兵としてこの地域の守備を行うことになる。中原の王朝の勢力が強いときには、彼らは中央の命令に従う軍人である。ところが、王朝が衰退したり他の王朝が取って代わると、彼らは独立した王様として行動し、中央の言いなりにならない。このような形での漢人によるこの地の支配が、「魏・晋・南北朝」の混乱のあいだ400年ほど続いたあと、麴氏・高昌国は140年ほど繁栄することになる。


入城手続きを終えると、ここでも15人乗りくらいの運転手付きカートで城内を移動する。カートが入れない場所は徒歩で歩く。高昌故城の入り口には、玄奘の像が勇ましい姿で建っている。玄奘に敬意を表し、帽子を脱いで写真を撮る。

故城の内部は、砂漠の中に土と煉瓦と石でできた宮殿跡・仏閣跡・住居跡があちこちに見えるといった光景である。英語・漢語・ウイグル語での案内板が見える。玄奘がこの地を訪れたと書いてある。我々日本人は、漢語を読むと8割がた理解できる。

「このお堂で玄奘が説法しました」とエイさんが教えてくれる。広いお堂ではない。30-40人程度が入れるスペースだ。ぎっしり詰めれば50人が入れるかもしれない。「今は上部は崩れていて青い空が見えますが、当時はレンガが積まれた立派な建物でした。音響効果も良く、マイク無しでも玄奘の声は全員にはっきり聞こえたはずです」とエイさんは説明する。

私からエイさんに質問する。「玄奘は中国を出発する前、サンスクリット語を含め西域の言葉を勉強していて、外国語にかなり堪能だったと聞きます。このお堂では何語で説法したのでしょうか?」

「漢語です」とエイさんは断定的に答えた。「当時の高昌国は支配層の漢人が人口の1割を占めていました。ウイグル人でも宮廷に出入りする人は、漢語を不自由なく使えたはずです」とエイさんは説明してくれる。現在のウイグル人もだいたい漢語が話せる。漢語が話せると豊かな生活ができるからだ。千五百年前のウイグル人も日常的に漢語を使っていたように思える。

帰路のカートの中でエイさんが言う。「あれを見てください。あそこが西門です。西門はVIP専用の出入り口です。玄奘があの門からこの城に入ったのは間違いありません」

エイさんの説明を聞いて私は胸が躍った。そして、その時の玄奘の姿を想像してみた。徒歩ではあるまい。馬車でもラクダでもない。玄奘は馬に乗って、この西門から入ったと考える。


城跡を出て、ここに隣接した食堂で西瓜をご馳走になる。私がハミウリに入れ込んでいるのを知っているエイさんは、「あれがハミウリの苗だよ。西瓜やハミウリを食べたお皿を店の人が洗ったあと、ハミウリの種が勝手に芽を出したんだ」と教えてくれる。私が田舎の畑に植えている胡瓜やまくわ瓜の苗とほとんど変わらない。これは、私にとっては貴重な光景だった。


高昌故城入り口にある玄奘の像


故城内部の景色

故城内部の景色

故城内部の景色

ここで玄奘が説法した



高昌故城全体の航空写真

食堂の流し場で見たハミウリの苗

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