2019年4月15日月曜日

カーネギー15歳の転職(1)

スコットランドの貧しい織物職人の息子に生まれたアンドリュー・カーネギー(1835-1919)は、13歳のとき一家でアメリカに移住する。

製鉄事業で成功し、鉄鋼王と呼ばれ、晩年は慈善事業でその富を社会に還元した。
全米50州への図書館の寄贈を皮切りに、カーネギーホールの建設、カーネギー・メロン大学の創立など、今でもアメリカ国民だけでなく世界中の人たちが、その恩恵に浴している。

現在のアメリカの富豪、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが、このカーネギーを師匠と仰ぎ、慈善事業に力を入れているのは、周知の事実である。

「カーネギー自伝」には、大志を抱き、人生の成功に向かって努力している多くの青年にとって、示唆に富む話が数多く語られている。

この人が若い時、転職するにあたり、「何を基準に転職を決めたのか」について見ていきたい。


産業革命による機械化の流れで、父親の手動による織物職人の収入は激減し、一家は困窮の極みに達した。
2人の子供の将来を考えた両親は、アメリカへの移民を決意するが、その旅費が無い。
母の友人の好意で20ポンドの旅費を借り、1848年一家でアメリカ行きの船に乗る。この時、
父43歳、母34歳、アンディ少年13歳、弟5歳だった。

ピッツバーグに落ち着いた父・母は、すぐに仕事を開始する。
一刻も早く20ポンドの借金を返さなくてはいけない。13歳のアンディ少年も仕事を始めた。
こうして2年足らずで、借りた20ポンドを返済する。

「このようにして、私たちはとうとう200ドルを貯蓄して、送金小切手にして、こころよく20ポンドを貸してくださったヘンダーソン夫人にお返しした」
と自伝にあるから、当時は1ポンドが10ドルだったことが分かる。大英帝国の威信が輝いていた頃である。


13歳のアンディ少年がはじめた最初の仕事は、綿織物工場での糸巻の仕事で、週1ドル20セントだった。

何ケ月かあとに転職する。
次の仕事は、小さな工場の地下での石炭の釜たきで、週2ドルになった。しばらくして同じ会社で、請求書を作る経理部に移動する。社長の字がひどく下手で、アンディ少年のほうが字が美しかったからだという。

そして15歳の時、運命的な転職をする。
この転職が彼の出世への分岐点となる。
(この3度目の転職については、次回のブログで本人の口から語ってもらう)

この仕事は、ピッツバーグ市電報局の電報配達で、週2ドル50セントである。
50セントの給料アップだが、それは大きな問題ではない。局長のブルックさんが立派な人で、アンディ少年を可愛がりあたたかい目で指導をする。
読書の機会が与えられ、アンディ少年はその好奇心から、仕事以外の通信技術も覚える。
立派な先輩、良い友人に恵まれ、人脈が急速に広がってゆく。
この電報局での3年間は、この少年にとって「社会人大学」であった。

4社目は、スコット大佐という実力者に見込まれて、ペンシルベニア鉄道に移る。「聡明な少年」との評判以外に「通信技術」を持っていたのが、スコットさんには魅力だったようだ。


カーネギーの小伝を語るのが目的ではないので、略歴はこのあたりで止め、本来の主旨に戻る。


このような転職を繰り返しながら、この少年の給料や地位はどんどん上昇していくのだが、ヘッドハンターから見て、興味深いことが一つある。

それは、引き抜かれるときの転職でも、その会社で大きな手柄を立てた後も、この少年は
「お給料やボーナス」、「昇進」に関して、何一つ自己主張していないのである。
不思議な気がする。
アメリカ人だから、良い成績を出した後、相手から希望されての引き抜きの時は、給料アップやポジションについてそれなりの自己主張をしているのか、と思ったのだが、それは一切ない。

まるで戦前の日本の田舎の青年のように、「慎ましく、ひかえめ」なのである。

「お給料アップ?いくらでもいいです」
「昇進、ポジション?すべてお任せします」
と、どのような局面でも、すべて直属の上司に丸投している。
どうも、お給料や地位は、自己主張しなくても、本人の実績により自然についてくるもののようである。

最初の2・3回の転職は、まったくの偶然であり、「仕事があれば何でもやります」とのスタンスだが、それ以降の転職に際しての判断基準は、「上司になる人が立派な人か否か?」の一点に絞っていたように思われる。

今一つ、この少年の特徴は、どのような困難に遭遇しても、「明るい気持ちで」、「好奇心を持って」
、「勇気凛凛」で、真正面から突進している。そして大きな成功をおさめた。

カーネギー・メロン大学でMBAを取得するのも立派だが、アンディ少年がこの大学を作るまでの過程を研究するほうが、もしかしたら、より役に立つかも知れない。












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