友人の中に、現代文明から逃れようと努力している男がいる。
どうも本人は、それがかっこ良いと思っているらしい。
この男、学生時代から「隠者」にあこがれていた。
陶淵明や寒山拾得の漢詩をノートに写したり、役小角(えんのおつ゛ぬ・役行者)の研究をしていた。
大学2年の時、「仙人になりたい」とテントを持って山に入った。他の友人に聞くと、2週間ほど秩父の山奥で1人で修行をしていたらしい。9月になってキャンパスを歩いているのを見つけて聞いてみると、「仙人になるのは難しい」と真顔で答えた。
この男、現在山奥の小屋で1人でランプ生活をしているのかというと、そうではない。
都心で電気・水道のある生活をしている。携帯電話も持っている。もちろんガラケーであるが。
世のおちこぼれかというと、そうでもない。かろうじて人並みの市民生活をしている。
結婚もしていて娘さんが1人いる。以前に奥さんと娘さんに会ったことがあるが、2人ともまっとうで普通の人である。本人だけが変わっている。
何年か前、私がスマホに替えたとき、「電話は通じればよい。お前も落ちぶれたもんだ。世の流行に迎合してしまって」と説教された。
この男と久しぶりに会った。
「お前まさか、LINEなどというくだらんものはやってないだろうな?」と聞く。
「やってないよ」と答えると、「よしよし、それで良いのだ」と笑う。
「LINEなど便利なものを使っていると、だんだん顔が猿に似てくる。気をつけろよ」
と忠告してくれる。
猿が進化して人間になった、と彼は言う。
そんなこと、言われなくても私も知っている。
「なぜ猿が進化して人間になったのか?それは猿が深く考えることにより、脳の髄鞘化(ずいしょうか)が活発になり、脳自体が大きくなったからだ」と言う。
「たとえば在原業平が恋文を書いて、小野小町のもとに使者を送ったとする。なかなか返事が来ない。業平は考えをめぐらす。雪が深いので小町姫の使者が難儀をしているのか?もしかしたら、姫は風邪で寝込んでおられるのか?いや、ひょっとしたら、若い男とねんごろになっているのかもしれない?、、、、と業平は空想・想像をめぐらす。これにより、業平の脳はさらに活性化されてくる」
このようにして、長い期間をかけて、猿が深く考えることによって、人間に進化したのだという。
「ところが現在は、便利で安い、ということがすべてに優先して、世界が動いている。瞬時に交信が出来るようになって、人間は深く考えないようになってきた。そしてだんだん猿に戻ってきている」
この男に言わせると、LINEだけではないらしい。
Eメールも、SMSも、ツイッタ―も、ネット検索も、エクセル・ワードで文章を書くことも、便利なものはすべて脳を劣化させるのだという。
この男の「奇人変人」ぶりには、へキへキすることが多いのだが、この話だけは、
「もしかしたら本当かもしれない」と思った。
なぜかというと、「トランプさんの顔の変化」に気が付いたからだ。
私は30年ほど前に、「交渉の達人ー若きアメリカ不動産王の構想と決断」という本を、友人に無理やり買わされた。友人の知人が、この本の出版社か翻訳者で、この本の宣伝を頼まれていたらしい。不動産には興味がなかったので、中身はすべて忘れてしまった。ただ、表紙のトランプさんの顔写真が、若くてハンサムで、なおかつ品格があったのが強く印象に残っている。
不動産で巨額の財を成す人など、きっと下品な顔の人だと思い込んでいた私には、この上品な顔は意外だった。
そのトランプさんの近頃の顔はいただけない。年齢を重ねて、シワやシミが出てくるのは仕方がない。ただ、かつての上品な顔から、ずいぶん劣化してきているのが気にかかる。
人は色々と言うが、私自身はトランプさんという人には好意を抱いている。
「もしかしたら?」と思った。
例のツイッタ―にその原因があるのではあるまいか?
ツイッタ―だけでなく、きっとEメール、LINE、SMS、ネット検索などを、頻繁に使っておられるのではあるまいか?
トランプさんの場合、猿というよりも、ゴリラ集団のボスゴリラという顔つきに変わってきている。
自分も気をつけたほうが良い。
Eメール、SMSなどは、仕事柄やめるわけにはいかない。
しかし、それ以外のLINE、ツイッタ―、フェイスブックなどなど、いわゆる「便利なもの」には、出来るだけ近ずかないようにしようと思っている。
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