2025年9月26日金曜日

【敦煌】鳴沙山(めいさざん)と月牙泉(げっかせん)

 シルクロードのものがたり(68)

西安から敦煌までの飛行は2時間弱だが、出発が少し遅れたので、敦煌空港に着いたのは午後3時を過ぎていた。迎えのバスですぐに鳴沙山に向かう。日没は夜の9時ごろなので時間は充分ある。驚いたのは、空港を出てバスに乗ろうとしたら雨が降っている。パラパラであるが、敦煌の雨は珍しい。20分ほどでやんだ。

鳴沙山は、東西40キロ、南北20キロの砂漠のはしっこにある。空港から15分ぐらいでずいぶん近い。あまりにも突然、「月の砂漠をはるばると、、、」の世界が眼前に現れたのでびっくりする。

月牙泉は鳴沙山の谷あいに湧く三日月形の泉(オアシス)で、漢の時代から今に至るまで一度も枯れたことがないという。幅は広いところで50メートル、深さは平均5メートルだそうだ。「魚もいるよ」とガイドさんが言う。

敦煌でのガイドは余(よ)さんという漢人で、48歳の男性だ。大柄でゆったりとした言動の人で、中国の「大人・たいじん」といった雰囲気の人だ。余さんとはすぐに仲良しになる。共に喫煙者だということに理由がある。今回中国を旅行して驚いたのは、飛行機・新幹線に乗るたびに危険物ということでライターを取り上げられた。とても厳重にチェックをする。

よって、次の町に着くと同時に「ライターはどこで買えるの?」とガイドさんに聞くことになる。空港を出て余さんにこれを聞く。余さんはポケットからライターを取り出し、「これをやるよ」と言う。西安で買い物をしておつりをもらっていたので、10元札が数枚ある。一枚を渡そうとすると、「いいよ、いいよ。カバンの中にもう1個あるから」と笑って受け取らない。「謝謝、謝謝!」と二度言って頭をペコリとさげる。これで二人の間には、一種の友情らしき感情が芽生える。

喫煙者は世界中どこでも、軽蔑され虐げられていて、絶滅寸前の少数人種になりつつある。タバコを吸うというだけで、お互いが親近感を持つということがどの国でもあるようだ。種の保存という動物の本能が、互いに助け合おうという気持ちにさせるのであろうか。


中国のどこの観光地でも、バスを降りたあと入園・入館のゲートで顔写真を撮り、ものものしくチェックする。そこから目的の地点まで数百メートル、1-2キロの距離があることが多い。昔は歩いたようだが、今は電動のカートで移動する。15-20人が乗れ運転手もいる。この鳴沙山観光もそのスタイルだ。オレンジ色の綿製品の靴カバーを余さんがみんなに配っている。25元のレンタルで、靴の中に砂が入らないようにこれで靴を覆う。

鳴沙山は70-80メートルの高さで、登りやすいように、ワイヤーと木板で簡易階段がつくられている。みんなが一列になって、ワッセ・ワッセと登っている。楽ではないが、今年の4月からスポーツジムで体を鍛えているのでそれほど辛くはない。

頂上に到着すると、微風が吹いてとても涼しい。見晴らしも良く、月牙泉の泉の周辺だけにある樹木の緑が、砂だらけの景色の中でひときわ美しく見える。玄奘だけではない。古来から何千年のあいだシルクロードの砂漠をラクダと共に歩いた旅人たちが、目的地のオアシスにたどり着き、緑輝く樹木を見たときの感激がどれほどのものであったか、想像できる。

砂だらけの鳴沙山を降りるとき、砂の中にスマホが落ちているのを見つけた。古いものではない。今日か昨日の落し物らしい。中国語の画面が見える。山から下りて余さんに渡した。「ほう、良いことをしましたね。落とした人は喜ぶでしょう」そう言って、余さんは管理事務所に届けた。

砂山から降りて、ラクダに乗ろうと思った。100元(二千円)払えば30分ほど乗せてくれる。ところが、「今年から65歳以上の人は乗れないという規則ができた」と余さんが言う。なんでも、今年の春ごろ北京から来た60代後半の男性観光客が、ラクダから落ちて大怪我をしたのだという。「田頭さんは若く見えるから64歳と言ってもよいのだが、パスポートを見せろというから無理だな」と言う。

若い頃、タイで象に乗ったことがある。今回ラクダに乗るのを楽しみにしていたので、誠に残念であった。

敦煌の砂漠にも楊貴妃が何人もいた




お揃いの靴カバーをして砂山に登る

左の三日月形が月牙泉

ラクダには乗れなかった


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