2026年8月6日木曜日

大学卒の初任給50万円(2)

 いま一つ、喫茶店のコーヒーの値段の話をしたい。

私は大学時代は体育会のヨット部に所属していたので合宿が多く、アルバイトはほとんどしなかった。ただ、冬場にひと月ほど好きなアルバイトをしてお金を稼ぎ、部費としてヨット部に納めるという制度があった。大学一年生の冬、ひと月ほど武蔵小金井の喫茶店でウェイターのアルバイトをした。

この店の雇われ店長は日大の学生で、私はこの人にずいぶん可愛がってもらった。日大に8年間も籍があり、あと一年で単位が取れないと退学になると言っておられた。「卒業しないと田舎の親が悲しむので、なんとしてでも卒業するんだ」と、仕事の合間に本を読んでおられた。

この店長が言うのだ。「アイスコーヒーを飲む奴は馬鹿だ。お前なぁ、喫茶店では絶対にアイスコーヒーを注文するんじゃないぞ」 どうしてですかと聞くと、日大8年生の店長は、秘密を打ち明けるように、次のように教えてくれた。

「うちの店ではホットもアイスも60円で売っている。ホットコーヒーの原価はコーヒー豆4円、ミルクと砂糖で2円、計6円だ。これに比べるとアイスコーヒーの豆は品質が悪いのを使うので安い。原価は2円なんだ。ミルクと砂糖を加えて原価4円のものをホットと同じく60円で売っている。他の店ではホットより高い70円で売っているところもあるんだぜ。だからなぁ、お前、喫茶店ではアイスコーヒーだけは絶対に飲むんじゃないぞ」

このようなことがあったので、私はよほど暑い時に、ごくまれにアイスコーヒーを飲むことはあるが、普通は夏でもホットコーヒーを飲む。アイスコーヒーを注文する時はいつもこの店長のことを思い出す。そして、なんだか申し訳ないことをしているような、軽い罪悪感を持つのである。同時に、あの店長はあっぱれ日大を卒業されのだろうかと、今でも思うことがある。

さて、現在のホットコーヒーの値段である。ベローチェ・ドトールなどは300円前後で、ホテルオークラ・東京會舘あたりだと1000円前後だ。コーヒーの値段は場所代が大きく関係するようだ。昔風の喫茶店では、2・3年前までは400円から450円位だった。ところが、現在私が通う中野の二つの喫茶店では、一つの店が600円、もう一つの店が650円だ。ちょうど10倍になっている。これが、「大卒の初任給を50万円にすべきだ」と私が考える第二の理由である。


ハガキとコーヒーの値段だけで決めつけるなよ、との声があるかもしれない。でもこの二つは、庶民の生活感を感じる場合、大きな指標になると考える。

じつは、新築マンションの値段も10倍になっている。親の援助を受けて私が西船橋に3LDKの新築マンションを購入したのは、入社4年目の28歳の時だ。昭和53年のことで、1380万円だった。入社以降の4年間に二度のオイルショックがあった。それに伴うインフレで、28歳の私の基本給は9万円前後だったと記憶する。4年前の入社時点であれば、同じマンションが1000万円弱で買えていたと思う。

「初任給40万円・50万円の会社がいくつか出てきた」と近頃の新聞で読む。嬉しいことだ。

すべての会社は無理だとしても、業績の良い会社の初任給の多くは、今後3~5年で50万円程度になるような気がする。それが出来ない企業の経営者には退陣していただく。あるいは、優れた経営者のいる優良企業に買収していただく。そうすれば、自然に初任給50万円の新入社員は増加することになる。このような動きは、日本にとって良いことだと思っている。


吉野山 「杉林」