ーはるかなる祖国ー
〇監視兵(エスコー)の 監視をさけてビルマ人 煙草の箱を落としくれたり
守住徳太郎 明治41- (ビルマ収容所)
〇波の上に 復員船の船体が 美しく見ゆ映画のごとく
前田秀 大正3- (チモール島)
〇一椀の 粥(かゆ)すすり終えおずおずと 代わりを求む瘦(や)せ瘦(や)せし兵よ
藤原立子 大正15- (従軍看護婦)
〇執行の 明日に迫れる弘田大尉 明るく語る落語一席
〇ひとくさり 語る落語に死刑囚皆笑ひ 減刑者身を震ひ泣く
〇友の房へ 「ひと足お先に」と礼しゆく さながら再び会はむが如く
並河 津 明治40- (戦犯 シンガポール・チャンギー)
〇満ちかけて 晴れと曇りに変われども 永久に冴え澄(さ)む大空の月
山下奉文 明治18-昭和21 (戦犯 マニラ)
〇先頭に レーニン・スターリン像を掲げ持ち 感謝の笑(ゑ)まひ作りつつ出つ¨
高橋房男 明治42- (ソ連)
〇水筒の 水の音さへかしましと 皆捨てさせて国境を行く
殻山松栄 明治40- (満洲から)
〇一昼夜に 十五里あまりあゆみけり 六歳の子も七歳の子も
藤川素生 (満洲から)
〇幾組の 柩(ひつぎ)より乗船始まりて 敗れし国に帰らむとす
首藤学郎 大正12- (引揚船)
〇今発たん 引揚船のドラの音 大連港にひびきわたれり
岡村千代恵 明治44-
〇降り立てば 博多は雨に煙(けぶ)りゐぬ 生きて日本の雨に合ひたり
児玉淑 大正11-
〇黒髪を かりあげし細きうなじもて 還(かへ)り来し従妹(いとこ)の多く語らず
太田麻子 (引揚者)
〇児の骨壺 抱き来し我を羨(うらや)みぬ 遺骨かへらぬ戦死者の親
寺田栄子 大正3-
〇牡丹江(ぼたんこう)の 河に棄(す)てたる幼な子の 溺(おぼ)るるさまを君泣きていふ
中川尚志 大正14-
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