2020年6月5日金曜日

昭和万葉集(6)

ーはるかなる祖国ー

〇監視兵(エスコー)の 監視をさけてビルマ人 煙草の箱を落としくれたり
  守住徳太郎  明治41-  (ビルマ収容所)

〇波の上に 復員船の船体が 美しく見ゆ映画のごとく
  前田秀 大正3-  (チモール島)

〇一椀の 粥(かゆ)すすり終えおずおずと 代わりを求む瘦(や)せ瘦(や)せし兵よ
  藤原立子 大正15-  (従軍看護婦)

〇執行の 明日に迫れる弘田大尉 明るく語る落語一席

〇ひとくさり 語る落語に死刑囚皆笑ひ 減刑者身を震ひ泣く

〇友の房へ 「ひと足お先に」と礼しゆく さながら再び会はむが如く
  並河 津 明治40-  (戦犯 シンガポール・チャンギー)

〇満ちかけて 晴れと曇りに変われども 永久に冴え澄(さ)む大空の月
  山下奉文  明治18-昭和21 (戦犯 マニラ)

〇先頭に レーニン・スターリン像を掲げ持ち 感謝の笑(ゑ)まひ作りつつ出つ¨
  高橋房男  明治42-  (ソ連)

〇水筒の 水の音さへかしましと 皆捨てさせて国境を行く
  殻山松栄  明治40- (満洲から)

〇一昼夜に 十五里あまりあゆみけり 六歳の子も七歳の子も
  藤川素生  (満洲から)

〇幾組の 柩(ひつぎ)より乗船始まりて 敗れし国に帰らむとす
  首藤学郎 大正12- (引揚船)

〇今発たん 引揚船のドラの音 大連港にひびきわたれり
  岡村千代恵 明治44-

〇降り立てば 博多は雨に煙(けぶ)りゐぬ 生きて日本の雨に合ひたり
  児玉淑  大正11-

〇黒髪を かりあげし細きうなじもて 還(かへ)り来し従妹(いとこ)の多く語らず
  太田麻子  (引揚者)

〇児の骨壺 抱き来し我を羨(うらや)みぬ 遺骨かへらぬ戦死者の親
  寺田栄子  大正3-

〇牡丹江(ぼたんこう)の 河に棄(す)てたる幼な子の 溺(おぼ)るるさまを君泣きていふ
  中川尚志  大正14-







 

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