2020年6月11日木曜日

昭和万葉集(7)

ー兵還るー

〇すり減りし 軍靴踏みしめ踏みしめて 復員船のタラップ登る
  大和田徹  大正9-(復員船上)

〇霞みつつ 紀伊の国見ゆ日本見ゆ いのちはつひに帰り来にけり
  宮地伸一 大正9- (復員船上)

〇還り来て 何をか言はむ夢にさへ 見し味噌汁のこの香りはや
  小国孝徳 大正6-  (還ってきた兵)

〇満洲より 還りし吾の頭なで まこと徳一かと母泣き給ふ
  福川徳一  大正3- (復員)

〇戦ひに 敗れて帰り来たりしに 妻は赤飯を炊きて迎ふる
  平松久雄 明治37-

〇はじめて逢ふ 七つの吾子(あこ)が面(おも)はゆさ そぶりにみせてわれにつきまとふ
  山内清平  大正3-

〇北支那に ありて書きたるわが遺書が 今日届きたり吾におくれて
  田口喜一  大正14-

〇万歳の 声に送られ出でしかど 潜戸(くぐりど)押してはひとり帰りく
  武安千春  明治35-

〇還り来し 夫(つま)のかたへに飯(いひ)を盛る かかる日恋ひて十年経(ととせへ)にけり
  中本幸子  大正3-

〇黄昏(たそがれ)の 庭にまさしく子は立てり 現身(うつしみ)生きてあな還りきつ
  西川定子  明治37-昭和43  (わが子を迎える)

〇わが子帰る 生けるわが子に見入りつつ ただに喜ぶわれとわが妻
  佐藤堅司 明治25-昭和39

〇戦友(とも)あまたを 人間魚雷に死なしめて 帰る吾児(あこ)は多く語らず
  菅原俊治  

〇シベリアの 奥地に夢見し吾が妻を 還りてみれば弟の妻
  鱒元登美数



 


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